冨士山アネットについて− ある夏の小さなワークショップで

 2011年の夏。四日間の、しかもそのうち三日間は夕方からという時間の限られたワークショップで、20分ほどの小作品を作り発表するという企画がアトリエ劇研であった。初対面の10人ほどと演出家。かなり過酷な(豊かな)作業だったと思う。冨士山アネットの長谷川さんはその企画に参加した演出家の一人で、わたしもそのとき初めてお会いした。彼の作品も見たことはなかったが、五日目に発表された彼の小品は短時間でつくったとは思えない出来で、パフォーマンスの構成やその中身もとても興味深かった。台詞は使われない。悪夢をさまよっている女性の様を、劇場にある長机やイスなどさまざまな道具を使って表現してみせた。  脚が折り畳まれた長机を何人かが持ち上げ、その上に主人公と呼んでいいだろう女性が乗っている。不安定で危うい場所に彼女はいる。身体が緊張しているのが分かる。観ているわたしも落ちやしないかと緊張している。その状態がまさしく悪夢だ。つまり例えば台詞を使って悪夢を”説明”するのではなく、身体でもって悪夢の世界を直接に実現している。身体をさまざまな道具と対峙させることで観客に「身体」を強く意識させることに成功していると思った。そうして悪夢という目に見えない曖昧なものを描こうとするのである。俳優の「身体」ということはよく言われるが、何が「身体」なのか示される機会は少ない。長谷川さんは、舞台作品というのがそこにある身体が見られることによって成り立つものなのだと、そのことをつねに意識している人なのだろうと思った。そのワークショップで作られたものを参考に、冨士山アネットの本公演『八』も作られたというが、果たしてその作品もアクロバティックなものも含めて身体によるパフォーマンスと呼ぶにふさわしいものだった。  音楽や照明の使い方にも独特なセンスがあって、この種類のものは京都・関西には無いのではなかろうかと思っている。ぜひ多くの方にご覧いただきたいと思う。           アトリエ劇研ディレクター 田辺剛

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